スタジオの片隅に「アイツ」が鎮座した。まるで小さな冷蔵庫のような白い筐体には、プロの現場を変えるという期待と、莫大なローンへの緊張感が詰まっている。「画面で見る色と、プリントの色が全然違うじゃないか!」 クライアントの厳しい声に冷や汗をかくのは、もう終わりにしたい。Photoshopを立ち上げ、トーンカーブを慎重にいじり、SCSI接続されたピクトロにデータを飛ばす。「水」と「熱」が織りなす魔法「ジーッ……」という駆動音。 このマシンの面白いところは、インクを使わないことだ。ハロゲン化銀を含んだ「ドナー」にレーザーを当て、「水」を塗布して熱で写し取る。 まさに銀塩写真の末裔。転写が終わると、ローラーからドナーがペリペリと剥がれ落ち、そこには瑞々しい質感の「写真」が現れる。 「……よし、これならいける。」出てきたばかりのプリントは、ほんのり温かい。 A3ワイドの大きな印画紙にハイライトからシャドウまで滑らかに繋がる階調『これ、デジタルで出したの? まるでベタ焼きじゃないか!』 翌日、納品先でディレクターが漏らした驚きの声。その一言のために私は今日も230万円の「魔法の箱」の前に立つ。